7月の特選奄美俳句5選No.10/2016.07

  • 2016.08.06 Saturday
  • 08:17

2015年10月から始めている「今月の奄美俳句特選5句」の10回目です。
奄美で発行されている日刊紙・南海日日新聞の文芸欄「なんかい文芸」に掲載された7月27日から7月29日までの四つの俳句グループから出された作品から五句をえらんでいます。今月は秀句がいくつかありました。奄美は夏が永く、この季節こそ奄美が奄美らしくなるためかもしれません。今月も特選句なし。(ルビは新聞掲載時の表記に従っています)

 

01.朝凪や(アートゥチドゥリー)魚釣船(イュートゥイニ)の(ヌ)全速力(チャートゥバシ)             

                          石原兼

02.夏座敷句集一冊伏せてある           島袋京子

03.濃(こ)あじさい褒めて立ち去る郵便夫       宮山和代

04.ゆうな咲く母も生まれし同じ空               原口ふみこ

05.白南風(しろはえ)に大蝶舞ひぬ喜界島         政久美子

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〈評〉
01/シマグチ(奄美語)のルビをふればそれだけで評価するというわけではない。この「なんかい文芸欄」には短歌を含めてときどきシマグチを使った作品が登場する(沖縄の新聞には「琉歌壇」があり、その琉歌はウチナーグチで作られることが多い)。この句は「朝凪の海に魚釣船が全速力で走っていく」といった明瞭な句意であり、ひょっとして作者はシマグチでふと口にしたのかもしれない。俳句はヤマトグチ(標準語)で作られることが殆どである。そうだとすると奄美の俳人たちは、時にシマグチで想起した感情・感動をヤマトグチに変換しなおしているのかもしれない。

 

02/句の“景”が鮮明に浮かび上がってくる。絵画的でもある。「夏座敷」「句集」「伏せる」といったモノとしての即物的な表現を重ねることで、夏らしいさまが浮かび上がってくる。こうした表現こそ俳句がモノを詠むことで抒情をかもしだす好例だといえよう。その句集は送られてきたばかりの句集かもしれないし、何度も繰り返し読んできた句集かもしれない。夏座敷を詠った句に〈茶室へと風の道あり夏座敷 中村恵美子〉があり、印象に残った。

 

03/きわめて抒情的な作品である。日常のなかのほんの一瞬のできごとを切り取る俳句文芸の面白さがよく表現されている。「郵便夫」となればわたしの世代は映画「郵便配達夫は二度ベルを鳴らす」を思い出す(何度か映画化されていてわたしの記憶に残るのはルキノ・ヴィスコンティ作、1942)。原作はアメリカが舞台だが、ヴィスコンティはイタリアに舞台を移し、それがまたイタリアの光景にぴったりはまり、しばらく間、原作もイタリアで生み出されたと思い込んでいた。都会の郵便配達夫は多くの郵便物を抱えているので、いつも忙しく立ち振舞っているが、島ではこの集落にだれがどのように棲んでいるのか知り尽くしているので、郵便配達夫も雄弁になるのだろうか。

 

04/「ゆうな」はオオハマボウの奄美・沖縄語。アオイ科の常緑小高木で黄色から桃色に花の色がかわる。ゆうなが咲く季節となり、その時間の感覚が母もこの同じ島でゆうなが咲く頃に生まれ、自分との経脈のながれを感受するといった心の風景が描かれている。「ゆうな」が出てくる句として〈花ゆうな老人飽かず海を見に 作田セツヨ〉を挙げよう。わたしも海が見える場所(神戸市垂水区塩屋)に住んだことがあるので、海に接して生きる者は、引きつけられるように海をながめてしまうクセがつくことを知っている。その理由はおそらくないだろう。「ゆうな」という花にはこの季節に生きていることを深く自覚させるなにかがあるのだろう。あと夏を想起させる句として〈夕凪や島の果てまで空気蒸す 和学歩〉〈梅雨明けて土の匂ひの黍畑 福永加代子〉も。

 

05/夏はまたハベラ(蝶・蛾)の季節でもある。奄美には蝶・蛾の厳密な区別はないと聞く(ただし近年はヤマトの価値観が入ってきているので、最近は蛾に対する文化的反応〈忌避〉が浸透しているのかもしれない)。その蝶が喜界島を舞っている。スケールを大きく設定している。正木礁湖の「​南島俳句歳時記」(1988.6.27)によると、「白南風は、梅雨が明けて黒雲が去り、空に巻雲や巻層雲が白くかかるころ、そよ吹く南からの季節風のこと」と解説されている。奄美には南風にのって迷蝶もやってくる。蝶の越境は日常的なのだ。

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  • 2017.07.21 Friday
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